はじめに
ピアノに興味はあるけれど、どうしても忙しい毎日に追われてしまい、「始めてみたい」と思ってもそのまま時間だけが過ぎていく…そんな経験がある方は多いかもしれない。大人になってから何か新しいことに挑戦するとき、最初は勢いよくスタートしても、数週間や数か月で気づけば練習をしなくなってしまうことが珍しくないのではないだろうか。
とくにピアノは、「子どもが小さい頃に習っていた」「一度は挫折したものの、大人になってまたやりたくなった」というケースも多く、再チャレンジ組も含めると意外と多くの人が興味を持っている。しかし、いざ始めてみると最初のモチベーションが続かなかったり、仕事や家事との両立が難しかったりと、乗り越えるべき壁がいくつか出てくるのが現実だ。
そこで、どうすれば「ピアノを習いたい」という思いを挫折せずに、長く続けていけるのか。そのヒントとして有効なのが、「小さな習慣」を作ることだ。大きな目標を掲げるのも悪くないが、まずは自分の日常の中にピアノを触れる時間を自然に組み込むのが、長続きのポイントになる。
ここでは、その「日常に溶け込ませる練習法」や「小さな習慣を積み上げるためのステップ」を徹底的に解説していく。読んでいる最中に、「こんな方法ならできそう」「これなら無理なく毎日ピアノと触れ合えそう」と思うものがあれば、ぜひ今日から取り入れてみてほしい。
ピアノを習慣にするとこんなにお得
1. 小さな時間の積み重ねが上達を生む
ピアノがうまく弾けるようになるには、定期的に鍵盤に触れることが一番の近道。たとえ1回の練習が数分でも、それを積み重ねることで指が慣れ、音の感覚が身体に馴染んでいく。逆に、週に1回だけ1時間弾くというようなスタイルは、大人にはなかなか難しいかもしれない。仕事や家事、急用などでその「1時間」が確保できなければ、その週は練習ゼロで終わってしまうこともあり得る。
でも、1日5分でも10分でも良いから「必ず鍵盤に触れる」という習慣を続ければ、仮に週に1回練習をまとめてやるよりも、指先の感触を維持しやすい。スポーツでも同じだが、短時間のトレーニングをこまめに積み重ねるほうが、長時間の練習をたまにやるよりも身体に覚えさせやすいのだ。
2. ストレス発散やリラックス効果
ピアノを弾くときには、指を細かく動かすだけでなく、音を聴き取りながら全身の感覚を使う。さらに、好きな曲であればなおさら、そのメロディに集中して自然と頭がスッキリする感覚を得られることもある。忙しい大人にとって、短いリフレッシュタイムが毎日確保できるのは大きなメリットではないだろうか。気分転換としてほんの数分でもピアノに触れれば、仕事の合間や家事の合間にリセットされて、次のタスクに向かうモチベーションにもつながる。
3. 上達の喜びが生活を彩る
続けているうちに少しずつ弾けるフレーズが増えていくと、自分でもわかる変化として達成感が得られる。人は、自分の中に「何らかの成長」を感じられると、日常が少しだけ明るく見えてくるものだ。新しいことに挑戦し、それが習慣化によって実を結び始めると、自分自身のセルフイメージも向上しやすい。「ちゃんと続けられている」「あの曲も少しずつ弾けるようになった」という実感が、自信ややる気に大きく影響してくる。
なぜ大人はピアノを続けにくいのか
1. 仕事や家事などの優先度が高い
大人が直面する最大の壁は、時間の確保だろう。子どものころは学校から帰宅して習い事に行く流れが当たり前でも、大人になると仕事の残業や急な用事、家族との時間も重要になる。そのため、ピアノの練習にじっくり取り組む余裕を持ちにくい。
2. 完璧主義が邪魔をする
意外と厄介なのが、大人になると「どうせやるならちゃんとやらないと意味がない」と考えがちになること。多くの責任を抱えながら生きているため、小さなことにも「ちゃんと時間をとれないとダメ」「やるなら集中的に練習したい」といった完璧主義になりやすい。しかし、現実にはそんなまとまった時間が毎日とれないから、結局やらなくなってしまうのだ。
3. 目に見える成果を急いでしまう
大人は子どもよりも結果を求めるのが早い傾向にあるかもしれない。数週間練習してみて大きな進歩が感じられないと、「自分には才能がないのかも」「なかなか弾けるようにならないな」とモチベーションが下がってしまう。ところが、ピアノは「徐々に指が慣れ、少しずつリズムやメロディが定着していく」というプロセスが大切。ある日突然「できる!」と劇的に変わるわけではなく、微細な積み重ねの結果として上達を実感できるようになる。
小さな一歩の大きな力とは
1. 1日5分でも効果がある理由
ピアノは楽器だが、イメージとしては語学学習や筋トレなどと共通点がある。筋トレでも、例えば腕立て伏せを週に1回100回やるよりも、1日10回でも毎日続けるほうが筋肉にとっては定期的に刺激が与えられるため効果的とされている。ピアノも同様で、週に一度だけ長時間弾くよりも、毎日5分、10分とこまめに指を動かすほうが、成果を積み重ねやすいのだ。
この「毎日少しずつ」の積み重ねが何より大事という点を理解しているかどうかで、長期的な結果は大きく変わる。もし5分しか確保できなくても、鍵盤に触れることで「今日はここまでできた」「少しずつ上達しているかも」という感覚が得られ、苦痛も少なく習慣化できる。
2. 「ハードルの低さ」が続けやすさを生む
「ピアノを1時間練習しよう」と思うと、忙しい日にはその1時間を丸々捻出するのが難しくなり、「今日は無理だな」と諦めてしまいがち。ところが、1日5分なら、「さすがに5分くらいなら時間を作れるかも…」と思えるだろう。大人が何かを習慣にするときには、「始める前のハードル」をいかに下げられるかが鍵になる。5分なら食後の一息や出勤前の早起きでカバーできるかもしれない。
3. やる気の波に左右されにくい
モチベーションには常に波がある。ものすごくやる気に満ちあふれているときもあれば、「今日は疲れていてピアノなんて触りたくない」というときもある。そんな状態でも、「たった5分だけなら弾いてみようか」という軽い気持ちを持てれば、完全にゼロで終わる日を減らせる。結果的に、ほんの少し指を動かすだけでも、累積的な練習量として蓄積されるのが習慣化のメリットだ。
1日のスケジュールに無理なく組み込む具体策
1. 朝起きたらすぐにピアノを触る
「朝はバタバタしてとても弾いてる暇がない」という人もいるかもしれないが、慣れてしまうと朝の数分は意外と活用しやすい。たとえば、いつもより5分早く起きて、眠い目をこすりながらでも鍵盤に触れてみる。どうしても無理なら、朝食後のわずかな時間でも構わない。朝に音を出せない環境であれば、ヘッドホン対応の電子ピアノやキーボードを使う方法もある。
2. 昼休みにタイマー練習
在宅ワークの方や、昼休憩に自宅に戻れる環境の人なら、昼休みに5分だけピアノに触れるのもアリだ。あるいは職場の近くにピアノの練習スペースやカラオケボックスを利用できる環境があれば、ちょっとした息抜きとして練習を組み込むのも一つの手段。タイマーを5分にセットして、その範囲だけ集中して弾くというスタイルなら負担になりにくい。
3. 夕食後の休憩タイム
家事や仕事を一通り終えてから寝るまでの間に、ソファでくつろぐ時間があるなら、その最初の5分をピアノ練習にしてみるといいかもしれない。テレビをつける前、スマホを触る前の短い時間を「まずはピアノ」と決めてしまうのだ。5分後には自由時間が待っていると思えば、取り組みやすくなるだろう。
4. お風呂や歯磨きの「前後」にセット
習慣づくりで重要なのは、すでに身についている別の行動の前後にやりたい行動をセットでくっつけること。毎日必ず行うお風呂や歯磨きなどに合わせて「お風呂に入る前に5分だけ練習をする」「歯磨きをした後は30秒でいいから鍵盤を触る」と決めてみると、自然に「何かのついで」にピアノが習慣になる。こうした形で生活のルーティンに組み込めると、続けやすさは格段にアップする。
続けるためのステップ:トリガー・練習・ご褒美
1. トリガー(きっかけ)を設定する
習慣化には、まず行動を起こす「きっかけ」が必要だ。たとえば先述したように、「朝起きたらすぐ」というのも立派なトリガーになるし、「寝る前に必ず鍵盤に触る」というのもそうだ。大切なのは、すでに日常的に行っている行動とピアノ練習を紐づけてしまうこと。
仕事から帰宅後に靴を脱いだ瞬間、あるいは夕食を食べ終わった直後、というように「いつも当たり前にやっている行動」に連結させると、ピアノ練習の開始ハードルが大幅に下がる。
2. 練習の短縮化・明確化
トリガーが決まったら、実際の練習をできるだけ簡単かつ明確なものに設定すると続けやすい。たとえば「今日の目標は右手だけでこの小節を弾く」「たった3小節だけ弾く」など、めちゃくちゃ短くても構わない。欲張って「この曲を完全にマスターする」と決めてしまうと、時間が足りなくなったときに挫折しやすいが、小さく区切れば「今日はここまでできた」と満足しやすい。
3. ご褒美システムを取り入れる
習慣化を促進するためには、行動のあとに何らかの「嬉しいこと」があるとベストだ。人によっては「練習を5分頑張ったら大好きなスイーツを食べる」「ピアノの後に一杯コーヒーを楽しむ」など小さなご褒美を設定するのもいいだろう。また、ピアノそのものが大好きであれば、弾き終わったときの「弾けた!」という達成感がご褒美になることもある。自分に合った形で楽しみや報酬を設定すると、無理なく続けられるモチベーションになる。
モチベーションを保つための工夫
1. 目標曲を設定し、「ここまで弾ける」を可視化
「いつか弾きたい曲」がぼんやりしていると、ピアノの練習全体が漠然としやすい。そこで、「最終的には○○の曲のサビを弾けるようになりたい」「右手と左手を合わせて一曲仕上げたい」など、明確な曲を一つ設定するとよいだろう。その譜面を手元に置き、見えるところに貼っておくと、日々の練習が「この目標に向かっているんだ」という自覚を持ちやすくなる。
2. 上達度を記録する
練習の成果は少しずつ積み上がるもので、昨日と今日で劇的に変わるわけではない。だからこそ、上達度を記録することが大切だ。たとえば、スマホで自分の演奏を録音したり動画に撮っておけば、1週間前・1か月前の自分と比べることができる。すると「あれ、このフレーズ、最初よりは確実に弾けるようになってる!」という実感が得られ、モチベーション維持につながる。
3. 目標を小分けにして達成感を得る
大きな曲を丸々1曲仕上げるのは時間がかかるかもしれないが、これを「1週間でイントロだけ」「次の1週間でAメロだけ」というふうに小分けにすると、こまめに「弾けた!」という達成感を味わえる。達成感はやる気を燃やすガソリンになる。だから、細かいステップで区切った目標をクリアしていくやり方が、継続にはとても効果的だ。
忙しい時こそ時短練習が効果的
1. 「最悪でも○分はやる」ルール
大人になってからの習い事は、想定外の出来事や仕事量によって練習時間が削られることが多い。そんなときには、「最悪でも3分だけは弾いてみる」とか、「左手だけでも動かしてみる」といった小さな目標を持つといい。すると、「もう今日は無理だ」という状況でも、ゼロではなく3分は鍵盤に触れられる。それだけでも、次の日に再開するときの心理的ハードルがぐっと下がる。
2. スキマ時間を活かす
通勤途中に譜面を見てイメージトレーニングする、エレベーターを待っている間に指の動きを小さく練習する(ハミングしながら指を動かす)、お風呂の中で「もし鍵盤がここにあったらどう弾くかな」と仮想練習をする。こうしたスキマ時間の活用は、意外と大人にとって大きいメリットをもたらす。実際に鍵盤を弾かなくても、イメージを反復すると脳が覚える助けになることがある。
3. 短期集中の「タイマー練習」
まとまった時間がないなら、逆に10分間だけ集中する「タイマー練習」を取り入れてみると、成果が出やすいかもしれない。タイマーをセットして、その間はスマホも見ずテレビも消し、ひたすら1曲のフレーズだけを繰り返す。集中力が切れる前にタイマーが鳴って終わるので、「まだやりたい」と思えたら延長してもいいし、疲れを感じたらそこで切り上げればいい。どちらにしても、効率の良い練習ができるはずだ。
仲間や家族を巻き込んでさらに習慣化を後押し
1. 家族と一緒に楽しむ
同居家族がいるなら、一人で黙々とやるよりも家族を巻き込むのも方法の一つ。「今から5分だけ練習するから、ちょっと聴いてて」「一緒に弾いてみない?」など声をかければ、家族も興味を持つかもしれない。あるいは子どもがいるなら、音楽好きな子どもと一緒に弾き合う時間にしてしまうと、家族のコミュニケーションにもなる。
2. ピアノ仲間と連絡を取り合う
知人や友人でピアノを習い始めた人がいれば、LINEやSNSでお互いの練習状況を報告し合うのもいい。人と繋がっていると、「自分も頑張ろう」という気持ちが沸く。特に、大人から始めたピアノ仲間は共通の悩みや工夫を共有しやすく、「どんな練習法をやっているか」「どの教材がよかったか」というリアルな情報交換ができてモチベーションアップにつながる。
3. 発表の場を作る
教室に通っているなら発表会があるかもしれないが、そうでない場合でも、仲間内でミニ発表会を企画するのも一つの方法。「○月○日に弾き合いをしよう」と決めれば、その日までに何とか仕上げてやろうというモチベーションが芽生える。小さな練習会を企画してもいいし、SNSのライブ配信で誰かに聴いてもらうのも面白いかもしれない。
挫折しそうなときのリカバリー方法
1. 一度ペースダウンしても良い
忙しさがピークに達してピアノに触れない期間が続くと、「もうこのままやめちゃおうかな」と思うかもしれない。しかし、趣味の場合は一時的に休んでもいいし、また再開すればいいだけの話だ。大切なのは「やめること」が当たり前にならないようにすること。少し落ち着いたら「あ、また5分だけ弾いてみようか」と戻ってくる気軽さを持つのがコツだ。
2. 短いフレーズから再スタート
長らく弾いていなかった曲をいきなり全部通そうとすると、ブランクで思い通りに弾けないかもしれない。そういうときは、戻りやすい短いフレーズから再開するのがおすすめ。以前より指が動かないと感じるなら、初心者向けの簡単な曲や、かつて弾けた曲の一部分だけを弾いてみる。すると「お、思っていたより悪くないかも」と感じられ、だんだんリハビリが進む。
3. やりたい理由を改めて思い出す
人は忙しいと「なんでピアノをやろうと思ったんだっけ?」と本来の動機を見失うことがある。たとえば、「昔からこの曲に憧れていたから弾けるようになりたい」とか、「大人になっても楽器が弾けるって素敵だと思うから」という原点を思い出すと、「そうだ、やっぱり続けたい」と心が動きやすくなる。思い切って好きなアーティストのライブ映像やCDを聴いてモチベーションを上げるのも効果的だ。
まとめ:日常の習慣がピアノライフを豊かにする
ピアノを始めたいと願う大人にとって、一番の敵は「忙しさ」と「時間のなさ」。しかし、「毎日長時間練習しなければ上達しない」というわけではない。短い時間でもいいから、とにかく鍵盤に触れる回数を増やす。そのためには、日常のどこかに小さな習慣としてピアノを組み込むことが最も有効なやり方だ。
- 1日5分でも10分でも
- 朝や寝る前、食後のちょっとした時間を活用
- 習慣にするためのトリガー(きっかけ)を決める
- やったらすぐご褒美でモチベーションを高める
このような工夫を積み重ねることで、気がついたら毎日少しずつ弾いている自分に驚くこともあるかもしれない。「今日はなんだか面倒だな」と思う日でも、「5分だけなら」と思えれば挫折は大きく遠のく。そして、それを積み重ねた先には、曲がスラスラ弾けるようになる喜びや、音楽を奏でる充実感が待っているはずだ。
「子どものころにちゃんと習わなかったから無理」「大人になってからでは上達しない」と思い込んでいる人も、ぜひこの機会に一歩踏み出してみてほしい。大切なのは「最初から完璧にやろう」と思わないこと。あくまで、小さな習慣を積み重ねることで、いつの間にか音楽の世界へ足を踏み入れている自分に気づく。そうすれば、忙しい日常の中でも豊かな音のある生活を楽しめるようになるだろう。
ピアノは、人生をほんの少しだけ鮮やかにしてくれる道具だ。日々の習慣として取り入れることで、仕事や家事に追われる生活のなかにも彩りが生まれる。ぜひ今日から「ちょっとだけ触ってみよう」という軽い気持ちで始め、ほんの少しずつでも鍵盤と仲良くなる習慣を育ててみてはいかがだろうか。
そうした小さな一歩こそが、やがて「ピアノを弾く喜び」や「音楽を味わう楽しさ」につながり、心や生活をより豊かなものへと導いてくれる。大人だからこそ、その一歩一歩を味わいながら続けることの価値はきっと大きいはずだ。
Synthesiaを使ったピアノ練習について
SynthesiaFanでは下記のようなピアノ未経験者の練習・独学を支援する情報を載せています。
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もしご興味があればぜひこちらの情報もご覧ください。
参考リンク
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